地熱発電の可能性
動き出した地熱資源大国日本
世界第3位の地熱資源大国日本。残念ながら、これまで宝の持ち腐れであった。しかし、いわゆる3. 11(2011年)以降、状況は劇的に変わりつつある。
国は、再生可能エネルギーに重点をシフトさせつつある。特に、二酸化炭素排出量が少なく、安価で、しかも天候に左右されない安定した地熱発電を積極的に進める姿勢へと転換した。そして、2030年度には、地熱発電の目標を、現在の3倍150万kWに設定し、各種の支援策を強化している。この数値目標は国の発電量の1%を賄い、太陽光発電に換算すると1,000万kWに相当するもので、チャレンジングな目標である。それに伴い、国内の地熱事業者・自治体は全国各地50カ所以上で地熱発電所建設のための調査を実施しており、2014年頃から日本各所で小規模地熱発電所(数10~数100kW級)の運転が開始され、さらに中規模地熱発電所(数千kW級)も数カ所で運転開始され、大規模地熱発電所(万kW級)は2019年以降、順次運転開始する状況になっている。
産官学一体となり、国を挙げて地熱発電所建設に向かっている。この目標を達成し、さらに2050~2100年に向けて、もう一段アクセルを踏む必要がある。そこでは、わが国電力の10%程度のシェアを目指すことになる。また、発電だけでなく、熱水を利用して農林水産物の付加価値を高めるなど、地域に役立ち、地域の理解を深め、地域振興に貢献することが求められるだろう。そのためには、有望資源が多いと推定される一方、未調査地域が多い国立公園内で空中物理探査などを進め、新たな地熱資源を創出するとともに、高精度の地熱貯留層探査技術・持続可能な地熱発電技術を一層進める必要がある。同時に、エコロジカル・ランドスケープ手法等先進環境技術を導入し、環境適合型の発電所建設を推し進める必要があることは言うまでもない。
国民の期待に応えるためにも、地球環境の維持に貢献するためにも、地熱発電関係者のいっそうの活躍を期待したい。

えはら・さちお/九州大学名誉教授、理学博士、地熱情報研究所代表。
1970年北海道大学理学部卒業、NEDO地熱開発促進調査委員会委員長、国際地熱協会理事、日本地熱学会会長などを歴任。
著書に『地熱エネルギー ―地球からの贈りもの―』(オーム社)、『地熱工学入門』(東京大学出版会)などがある。